12月5日放送 NHK『とく6徳島』

【スタジオにて】
藤原キャスター:配偶者や交際相手からの暴力などをさすDV、ドメスティックバイオレンス。警察庁のまとめによると、女性の被害などに関する相談等の割合が多いですが、青で示したグラフ、男性の被害などに関する相談等は年々増えています。去年の調査では全体のおよそ3割が男性です。それでもまだ声を上げづらい男性DV被害者を支援しようとする被害経験者の男性を取材しました。

【インタビューの場面】
ナカムラさん(仮名):正座させられて、目とかをグーでバーンってずっと殴られたりとか、喉をずっと殴られたりとかっていうことがありましたね。
ナレーション(藤原キャスター):パートナーからのDVを受けたナカムラさんです。今は彼女の元を離れ、日常を取り戻しつつあります。
藤原:気持ち、体力的には元気になられた?
ナカムラ:そうですね、完璧ですね。元気さ更新中です。
ナレーション:DVの始まりは、スマートフォンで友人などに送るメッセージの監視でした。
ナカムラさんの生活習慣を正すなどとして、パートナーからの管理はどんどんエスカレートしていきました。
ナカムラ:部屋への入り方、靴の脱ぎ方とか、自分の体の洗い方の順番です。
藤原:どういうことですか?
ナカムラ:そういうものを銭湯から上がってからもう逐一全部言わないといけなかったんで。
ナレーション:彼女の思い通りにこなせない日々。罰として暴力や罵倒も加わっていきます。
ナカムラ:彼女の表現だと思っているから、これは暴力ではない。じゃあもう俺が本当に頑張ってこの状況を変えるしかない。頑張ろう。でも苦しい。
ナレーション:やがて食事の管理。一日にバナナ一本を食べられるかどうかの生活が続きました。
ナカムラ:(彼女が)「私もこういうことしたくないけど、あなたができないから。約束したことを守れないからこういうふうになってる。だからあなたが悪いからね」って。
ナレーション:体重は70キロ台から40キロ台まで落ちました。それでも被害を自覚していませんでした。
ナカムラ:DVだというふうな認識はなくて、すごく…、言葉の表現が合っているか分からないですけど、ある種の純粋さを感じたんですよね。純粋さから来る中での、言葉じゃない伝え方として彼女が(暴力や食事制限を)取ったのであれば、受け止めないといけないかなという考えでしたね。
ナレーション:自分の足で立てず意識が朦朧とする日々。ある日、自宅で倒れ心配停止に。極度の栄養失調で命を落とす寸前でした。意識が戻ったのは、集中治療室のベッドの上でした。
搬送先の病院から連絡を受けて支援をおこなったのは、徳島を拠点にDV被害者支援をおこなう団体、白鳥の森でした。男性の被害者支援を積極的におこなう団体は全国でも数少ないといいます。退院後、警察や病院と話し合い、中村さんを白鳥の森が運営するシェルターで保護しました。

【当時保護されていたシェルターの一室にて】
ナカムラ:ここがキッチン。
ナレーション:ナカムラさんはパートナーから離れて、一人で自由に暮らす生活を取り戻しました。
ナカムラ:全部嬉しかったですけどね。自分でご飯炊けるとか、お米炊けるぞとか、自分の好きなもの作って食べるとかっていうのも、嬉しかったですね。
ナレーション:支援団体で、ナカムラさんはDV被害を受けた男性たちと交流。それぞれの被害の実態を聞いて、DVを受けていたと強く自覚するようになりました。
ナカムラ:こんなにいっぱいいるの?っていう。こんなに同じ共通な、境遇のケースの方々がこんなにたくさんいるんだっていう。肉体的に力が強い・弱いからそういうことになるというわけではなくて、支配する側とされる側っていう関係になった時点でそういう、DVのリスクはあると思うようになりましたね。

【白鳥の森オフィスにて】
ナレーション:ナカムラさんを支援する団体の理事です。男性がDV被害を自覚しづらいのは、男性らしさへの先入観が根強く残っているためだといいます。
山口(白鳥の森):「男なのにDV被害に遭うことなんてあるの?」という意見がどうしてもやっぱり多い。みっともないとか、男のくせにだらしないとか。そういった視線にさらされることが多いんじゃないかなとは感じます。

【支援者養成講座の場面】
ナレーション:今、ナカムラさんは支える側をめざしています。支援団体の主催で開かれるサポーター養成講座。受講者の多くは、ナカムラさんのようにかつてDV被害を受けた男性たちです。
山口:まずその人の言うことを信じるっていう、それをすることが私たちの仕事のスタート地点。
参加者A:私は別に刺されたりとか物で殴られたりとか、そういったことをされたわけじゃないですね。ただ無視されたりとか、汚いとか臭いとか、なんかそんなことをずっと言われ続けて。
参加者B:カウンセラーさんに言われて気づいたのが、『あなたの友人が同じことをされてたら、あなたはどう思いますか』って言われて。自分の中にある感情をちょっと他人事にしてみる、外に出してみるのもありなんじゃないかなと思いました。
ナカムラ:共感しかないですよ、やっぱり。個別具体は全然違いますけど、受けている特殊な環境とかっていうもの、似通ってる部分というか、一緒なんです。
ナレーション:支援団体では被害の経験者が語ることこそ助けになるといいます。
山口:同じ経験をした人だからこそ言えることもあるし、この人も私と同じように被害に遭ってきて、でも今こうしてこんな活動してるんだって。それはやっぱり僕たちにはできないことかなと思います。

【インタビューの場面】
ナレーション:DV被害は自覚しにくい。ナカムラさんも自分の経験を生かしたいと話します。
ナカムラ:誰かが聞いて『もしかしたらこれって俺のこと言ってるのかもしれないな』とか、そういう渦中に置かれている人たちのどこかしらタッチポイントになって、それを見て(DV被害の実情を)知ってくれる機会になるぐらい、何かしらの助けになればいいかなぐらいで。自分の道をちゃんと選んでも、それによって罰を受けることはないし、自分の人生を起軸にして生きていっていいし、そっちを選んでほしいなと僕は思います。

【スタジオにて】
よし(土に口)成キャスター:壮絶な被害の実態に驚きました。でも、被害経験者のリアルな声、声を上げることっていうのが気づくきっかけになるんですね。
藤原:ナカムラさんたちの声が被害を自覚する第一歩になってほしいなと思います。そしてこちらが白鳥の森の問い合わせ先です。24時間365日、被害の相談を受け付けているということです。そして今回取材をして感じたことなんですが、2人だけの関係の中で起こることですので、周囲もなかなか気づきにくいということがあります。このDV、性別は関係ありません。被害の実態を知った私たちも身近な異変に気づいたときに一歩踏み出して、まず声をかけることを厭わないようにしたいと思います。ここまで特集でお伝えしました。

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